大腸菌株DH5αについて
DH5αとは
大腸菌株DH5αは、遺伝子工学の研究で広く使用される株の一つです。
DH5αの遺伝子型のうち、以下のものが遺伝子クローニングやプラスミド増幅などにおいて有用な性質を持ちます。
recA1:
相同組換えに関わる遺伝子であるrecAの機能欠損変異(1塩基置換)。recAが活性の場合、プラスミドと染色体の相同的な配列が組換えを起こします。この変異によりプラスミドDNAの欠失、置換、脱落が抑えられ、クローニングされたDNAが安定して維持されます。
endA1:
非特異的なDNA消化酵素であるEndonuclease Iの機能欠損変異(1塩基置換)。プラスミドの精製過程におけるEndonuclease Iによる消化を防ぐことにより、より高い品質でプラスミドが回収できます。
hsdR17:
endonuclease R EcoK1 subunitの欠損(1塩基置換)。野生型の大腸菌では、メチル化していないDNAは外来DNAとしてEcoK制限系の制限酵素で分解されます。この変異により、PCR産物などのメチル化されていないDNA断片も排除されず、クローニングできます。
Δ(lacZYA-argF)U169またはΔ(argF-lac)169:
lacZ遺伝子(β-D-ガラクトシダーゼ)の欠損。この欠損と、下記lacZΔM15により、プラスミドへの遺伝子挿入を確認するための手法であるblue white selectionが可能になっています。
φ80lacZΔM15またはφ80dlacZ58(M15):
β-D-ガラクトシダーゼのωフラグメントをコードする遺伝子の大腸菌ゲノムへの挿入(φ80 phageに乗って挿入)。ωフラグメントはアミノ末端付近の11-41アミノ酸を欠失したβ-D-ガラクトシダーゼです。ωフラグメントは活性型の四量体を形成できないため、β-ガラクトシダーゼ活性を持ちません。一方、blue white selectionにおいてプラスミドから提供されるβ-D-ガラクトシダーゼのαフラグメントはのアミノ末端50アミノ酸程度をコードします。ωフラグメント、αフラグメントは共に、単体では活性を示しません。しかし、αフラグメントとωフラグメント両者が同時に存在し、ヘテロ四量体を形成することにより、β-D-ガラクトシダーゼ活性を示します。
αフラグメントをプラスミドに組み込み、その中にマルチクローニングサイトを設計することにより、プラスミドへの遺伝子挿入の有/無によるαフラグメントの破壊/非破壊がなされ、X-galを基質として大腸菌コロニーの白/青としてスクリーニングに用いることができます。